「木製玄関ドアの断熱性能」について
2021年4月春から、「断熱に関する説明義務化」がいよいよスタートします。住宅の高断熱化は人々の健康と安全、そして政府が目指す2050年のカーボンニュートラル政策においても、とても大切なことです。
ユダ木工の木製玄関ドアは、公的な第三者機関による試験を受け、製品の断熱性能を数値化しております。初めて試験所に木製ドアを持ち込んだのは、2000年初頭でした。以来、新製品誕生の度に断熱性能試験を実施してまいりました。
JIS A 4710 建具の断熱性能試験(熱貫流率U値)
木製玄関ドアは、ユダ木工のように枠と扉を工場でユニット化した既製品ドアと、設計者の意図に合わせ大工・建具屋が製造する「造作建具」に分類されます。
大工・建具屋さんで作られる造作建具はデザイン・樹種など自由度が高く、必然的にオリジナリティーの高い木製玄関ドアを可能としてきました。実はユダ木工もそうした造作建具には、憧れをもって見るものも少なくないのです。
建築資料研究社 1974年出版 建具デザイン原図集
造作建具の熱貫流率の確認方法について
2021年4月春にスタートする「断熱に関する説明義務化」に伴い、住宅の断熱性能値が一層重要になります。住宅の断熱性能値を計算するためには外壁や屋根など、様々な住宅部品や部位の「熱貫流率」が必要です。そこには玄関ドアも含まれます。
建築研究所「平成28年省エネルギーに準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報 第三節 熱貫流率及び熱線貫流率」
去年の12月まで、試験データのない造作建具の玄関ドアについては、「建築研究所」の資料(※1)にある仕様規定(※2)を参照することで、その値が確認できていました。しかし2021年1月の改訂で、これは廃止になりました。
※1 独立研究開発法人 建築研究所「平成28年省エネルギーに準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報」
※2 第三節 付録B「表8 ドアの熱貫流率」
今後、素材の値や部位の係数に基づいた簡易計算式で算出する値のみ有効とされます。つまり、建築研究所が定める素材の熱貫流率(=熱の伝わりやすさの値)などをもとに、ドアの性能値を計算しなくてはいけません。そこで表にある素材を見てみると…
表4 戸の種類に応じた熱貫流率及び線熱貫流率
金属製高断熱フラッシュ構造
金属製断熱フラッシュ構造
金属製フラッシュ構造
金属製ハニカムフラッシュ構造
金属製又はその他
なんと、木製玄関ドアは「その他」になってしまいました(ちなみに、枠や窓には「木製」の項目があります。なぜ扉にだけは無いのでしょうか?)。そしてこの「5.61」がどんな数値かというと、以下の通りです。
木材は本来、他の素材と比較し熱を伝えにくい性質を持つ素材です。ところがこの資料に基づいて計算した場合、断熱性能数値上では、最低のH-1等級を大きく下回ってしまいます。まるで、玄関ドアに木製は存在しないかのようです。
しかし、適正な数値を取得するために造作建具をひとつひとつ試験所に持ち込むことは、全く現実的ではありません。造作木製玄関ドアは今後、一体どうなってしまうのでしょうか。
日本の街並みにふたたび、経年変化する木材の豊かさを
われわれは木と永く共存してきました。様々な歴史や文化は木とともにあり、今日まで継承されています。先人の取り組みは今ふたたび脚光を浴び、中小規模の公共建築でも木造化が進み始めています。
その牽引役のお一人が、建築家の隈研吾氏です。新国立競技場では可能な限り木材を活用して木視率を上げ、流れる風が観客に心地よく感じる、世界にない競技場を設計されています。
隈研吾氏がおっしゃった言葉が印象に残ります。いつまでも変化せず「ピカピカでツルツル」のものは、人々にストレスを与えてしまう。これからの建物は人々と同様に、年とともに美しく変化する、つまり「経年変化」を楽しむものだ、というような言葉です。
今まさに世界は、木の時代です。木材はとても魅力的です。独特の質感、経年変化する風合い、手触りなどは、住宅・街並み、そして暮らしを豊かにしてくれる、大切なものだと思っています。
これからも木製ドアの魅力発信に、より一層努めてまいりたいと思います。
かつては多くの住宅で使われていた木製玄関ドアが、ふたたび私たちの身近な存在になっていくこと。
それがユダ木工の目指すことです。
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