「上質な居心地を叶える、呼吸する木の家」をキーワードに、プレカットから断熱材、設計・建築など、手広く事業を展開されている安成工務店グループ。この度は、山口県下関市、安岡ヒルズにて安成工務店が手掛ける、省エネ住宅・スマートハウス「エネ+(たす)」にユダ木工のドアを採用していただきました。
今回は工場を飛び出して「エネ+」の住宅、安成工務店プレカット工場、安成工務店グループのデコスファイバー工場を見学させていただきました。前編では「エネ+」の住宅を、建築士の弘中さんにご紹介いただきました。
弘中さんが住宅を紹介される中で、何度も口にされていたのは「居心地の良さ」という言葉です。「エネ+」の住宅で実感した、家にいる時間が幸せになるような「上質な居心地」についてご紹介します。
自然を生かす家
リビングに入って、まず目に入るのは住宅の南側に広がる安岡の景色の中にいるような大きな窓です。高気密・高断熱の住宅では熱を伝えやすいガラス窓は小さい方が良いのですが、風景の向こうに海を望むこの場所、この住宅にしかない自然の景色を生かすには小さな窓だともったいない。その住宅にしかない環境を生かすことが「居心地の良さ」のヒントです。
また安成工務店は、人と環境に優しい自然素材の住宅を追求しており、木が印象的なこの住宅には、土壁、木のドア、天然芝、エッグタイルなどを使用しています。
試しに人工芝とこの住宅の庭にある天然芝の表面温度を計測してみると、どちらも日向の同じような場所にあっても天然芝は39.6℃、人工芝は49.9℃。太陽の熱を蓄えすぎない自然の力を暮らしに生かす工夫がありました。素材が太陽の熱を吸収してくれるこの住宅では、日陰に入るだけで空気がひんやりしているように感じます。
自然と共生する家
この住宅には地域環境に適した日本特有の深い庇、伝統的な建具である雨戸が使用されています。その効果の1つは、「外からの熱を伝えず、室内の快適な温度を逃がさない」というこれまでの断熱の考え方にプラスして、住宅に熱を届かせないことに着目しています。
この住宅では、一般的なものより深い庇と可動ルーバー付きの雨戸を設置して、できる限り住宅に熱を伝えない工夫がされています。まず、上のイメージ図のように庇を普通よりも深くとることで、壁や窓に日光が届く前に太陽の熱を屋根で遮ることができます。
加えて雨戸を利用することで、窓と雨戸の間に空気層ができて断熱の効果がある点や、毎年猛威をふるう台風から雨戸が窓を守ってくれる点など、昔ながらの日本の気候風土に合った設計やデザインを取り入れた、住んでいて心地の良い「環境と共生」する暮らしを実現します。
他にも、ブラインドのように雨戸のルーバーの角度を調節して、採光・外からの視線を調整できることや、手動操作なので複雑な機械トラブルがないことも住み手の安心につながります。
また雨戸をしまいたい場合は、壁の戸袋に収納でき、カーテンが不要ですっきりとした窓まわりになります。
玄関も、深い庇と土壁の中に玄関ドアを設置する設計です。玄関先で傘を開いたり、たたんだりできるような広々とした空間がある住み手にとって使い勝手の良い空間であるのと同時に、木製ドアにとっても温度や雨、日光による変形・変色が少なく、ドアの性能を効果的に引き出す設計になっています。
鋭い美的感覚を持っていた小説家の谷崎潤一郎は著作『陰翳礼讃』の中で、まさに日本の深い庇をとりあげて、「美と云うものは常に生活の実際から発達する」と述べています。日本の、地域の、その住宅にしかない実際の生活に合わせた設計の美しさ、機能性に感動しました。
気にならない家
中に入ってみると無垢材を最大限に活かしたおしゃれですっきりした印象の内観で、住宅のプロたちが考え抜いた住宅であることが感じられました。ただ家具や内装が素敵なものであることはもちろん、その素敵な内装を邪魔しないよう徹底的に、気になる箇所を目立たせない工夫がされています。
例えばこの庭を一望できるリビングのソファー。座ってみると少し低い位置から、雨戸の節でご紹介した、大きく広がる下関の景色を眺めることができます。「そういえば自分のお家に、こんなに落ち着いて家にいることを楽しめる場所があるだろうか」と考えさせられるような場所でした。
このソファーのまわりにも目立たせない工夫があります。1つ目に座面の下に奥行きがたっぷりとられた収納スペースが隠されています。2つ目に、ひじ掛けのある部分にコンセントが隠されています。
そして3つ目に音です。弘中さんに言われて耳を澄ませてはじめて、すぐ近くの道路を走る車の音に気が付きました。窓の先は車道になっており、見学中も何台か車が走っていたのですが、部屋の中では全く気になりませんでした。(その秘密は安成工務店グループの手掛けるデコスファイバー。詳しくは工場見学ブログ後半をご確認ください)
「居心地の良い家」にかける情熱
良いものを選び、その良さを十分に活用できるよう設計する。
弘中さんは、「今かっこいいだけではなく、30年経っても価値のあるものをつくりたい」とおっしゃっていました。どうすれば「居心地のいい家」になるかと考えられており、その住宅が住み手にとって、その街にとって、環境にとって本当に良いものであるかを真摯に追求されていることを、お話の内容だけでなく、説明されている様子からも感じました。
取材協力
株式会社安成工務店様
https://www.yasunari-komuten.com/
使用木製ドア
MIYAMA桧玄関ドア
ONR4色