前回コラムのプレカット工場の見学で、目に見えないところで住宅を支えてくれている木材とその繊細な加工を行う職人技を感じることができました。見学の最後に拝見するのは、同じく「そーれきくがわ」内、安成工務店グループのデコス株式会社デコスファイバー工場です。
デコスファイバーとは、セルロースファイバー(天然の木質繊維)である新聞紙をリサイクルして作られた木材由来の多機能断熱材です。デコスファイバーは、本来捨てるだけの駅前などで売れ残った新聞紙や家庭の古新聞紙を再資源化する点で環境に優しく、特別な断熱施工と断熱性能による省エネ・健康性にも配慮する人と環境のどちらにも優しい断熱材です。
工場を入ってすぐにデコスファイバーの原料となる古新聞紙のかたまりが置いてありました。説明していただくのは、工場長の岡川さんです。「この新聞紙のひとかたまり1トンは朝刊約18年分で、30坪の住宅一軒分の断熱材になる」と具体的な数値を用いたご説明があり、断熱材として利用されなければ、これだけの資源が無駄になるのだ、と地球に怒られそうな量です。
デコスファイバーの機能性、実感
デコスファイバーは、身近にある新聞紙からは想像できないような断熱材としての機能を備えています。
そのひとつは、レポート前編でご紹介した「エネ+」の住宅で感じた吸音・遮音性。
工場内で実験してみると、住宅の壁のようにデコスファイバーが側面に充填された容器に入れるだけで、防犯ブザーの音が全く聞こえなくなりました(画像左)。またインカムがないと近くの声も聞こえない機械のそばでも、デコスファイバーを施工した「体感ハウス」内ではマスクでこもった声でも説明が聞こえ(画像右)、その高い吸音性を感じられます。
デコスファイバーは、セルロースファイバーとして初めてJIS A 9523(吹込み用繊維質断熱材)の認証品となりました。原料が新聞紙で燃えやすそうに感じますが、直接ガスバーナーの火を当てても全く燃えません。表面がほんの少し黒く焦げるだけで、焦げた部分を取り除いてみると内部には火が通っていません。
デコスファイバーの良さはまだまだあります。7つの特長を、『デコス住まい手アンケート2021』で集まった実際に生活をされている方々の声とともに紹介します。
・住宅性能表示制度「断熱等性能等級4」に適合した、高い断熱性
「寒い季節の早朝でも、暖房に頼らず過ごせます。
まだ誰も帰っていない家に入っても暖かいので、ほっとします。」
・吸音、遮音性能
「とても静かで良いです。ちょっとテレビなどつけていると、
外が大雨なのに気付かないこともあるくらいです。」
・JISの品質基準に基づいた難燃性、燃えても有害ガスを発生しない安全性
「新聞紙を燃やす実験など説明して頂き、安心して過ごせてます。」
・同じくJIS基準をクリアした防カビ、防虫性能
「今のところ、カビやシロアリの問題は起きておらず、満足してます。」
・結露対策に効果的な、日本の気候に適したセルロースファイバー特有の調湿性
「一度も結露が起きたことがないので驚きました。
梅雨時期のジメジメ感もほとんどなく満足しています。」
・断熱欠損のないブローイング(吹き込み)による断熱責任施工
ボード状の断熱材を切り填めする施工とは違い、綿状のデコスファイバーを隙間なく吹き込むデコスドライ工法に加えて、断熱材をただ販売する方式ではなく、デコスの専任の技術者が責任をもって完全施工を行う仕組みが構築されている。
配慮はお客様に届くまで、改善し続けるデコスの姿勢
責任施工のお話を聞いて感じた、デコスのお仕事のキーワードは責任感。もちろんデコス工場の中でも人の目が光ります。
「新聞にチラシなどが混入していないか」、「濡れや汚れがないか」、「計量の値がおかしくないか」をそれぞれの工程でチェックし、もし不具合があれば完成していても不合格品として選り分けられます。
このように「人に寄り添う」視点をもって厳格に管理された製造に加えて、岡川さんは「プロセスに配慮したCO₂削減の取組みをしている」と語ります。
原材料調達から生産、流通の各段階において、カーボンフットプリントを活用してCO₂排出量を“見える化”、より効率的な方法に改善しています。また家の設計から解体までのCO₂排出量を削減・オフセットする取組みを行っています。この取り組みは社会的にも認められ、環境省主催の「第2回カーボン・オフセット大賞」で優秀賞を獲得しました。
この画像の積載の仕方にも工夫があります。一度デコスファイバーの袋をフレームから取り出し、荷台に隙間なく詰めることで一回の輸送を無駄なく活用しています。デコスは、手間がかかっても自然環境のために、住み手の居心地の良さと健康のために、改善を続けています。
暮らしに込める熱い想い
最後に、見学の際にいただいた冊子『くまもとの力 熊本地震仮設住宅はじめて物語』からデコスの想いが、2016年に起きた熊本地震の復興に貢献した事例をご紹介します。
「単に元あった姿に戻すだけではなく、創造的な復興を目指す」くまもと型仮設住宅の断熱材に選ばれたのがデコスファイバーでした。仮設でも新築に求めるのと同じ住み心地の良さを実現するために、断熱・調湿機能はもちろん、音が気になる共同住宅の界壁の遮音にも期待ができるデコスファイバーは「冬は暖かく夏は涼しい」「近隣の音が気にならない」と高い評価を受けました。(産経新聞 2023/4/13)
熊本県「熊本地震 『みんなの家』 利活用プロジェクト」
https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/115/51277.html#2
施工にあたっては、山口工場は業務を止めて施工応援に、関東工場からはJR貨物で必要なデコスファイバーが急ピッチで輸送されました。そうして完成した木造仮設683戸のうち約8割にあたる541戸が市町村所有の住宅などに転用されて現在も活用されています。
安成工務店の住宅、工場を見学させていただいて、その家でずっと住み続ける住み手の暮らしを考えるプロの視点と工夫、熱意を感じました。住宅・製品の良さをお話しされる安成工務店・デコスの皆様は朗らかで、居心地の良い住宅、楽しい暮らしに対するワクワクをお仕事に込められていることが伝わってきました。
安成工務店のモデルハウスや今回ご案内いただいた「そーれきくがわ」は見学の他にも、イベントやワークショップを開催しています。木に触れ、自然に触れ、実際の暮らしに触れて、「暮らしの質」について体感できる機会になります。ぜひホームページからご確認ください。
マスコットキャラクター『デコ助』
充実した見学の最後に、デコスの可愛いマスコットキャラクター『デコ助』が見送ってくれました。
取材協力
株式会社デコス様
https://www.decos.co.jp/
参考
・株式会社デコス『デコス住まい手アンケート2021』集計結果(2021.6.17公開)
https://www.decos.co.jp/wp-content/uploads/11cae153579875d896619bfee63cc310.pdf
・産経新聞『熊本地震の木造仮設、8割再活用 新聞紙原料の断熱材が好評』:
https://www.sankei.com/article/20230413-5NFUEWATC5PKHMZDOFIDGQDERA/
・株式会社デコス『熊本木造応急仮設住宅へのデコス採用!』
https://www.decos.co.jp/news/kumamoto_mokuzououkyu_kasetujyutaku_decos.html