住宅気密性能の専門家・卜部さんのお住まいと木製玄関ドア

気密測定士・卜部さんのお住まい

暮らしの快適性と健康を守る、住宅の断熱・気密性能。
今回のコラムでご紹介する木製ドアご愛用者さまは、気密測定士・卜部さんのお住まいです。
卜部さんは住宅の気密施工の研究や、山梨県の快適な住まいづくり（やまなしKAITEKI住宅）など、
日本の住宅性能向上に貢献されている専門家です。

この日は高湿度の記録的猛暑日でしたが（取材日 7月）、卜部さんご自宅の室内はサラリと快適な空気です。

ユニークな外観デザインの秘密

卜部さんご自宅は、木造大型パネルという新しい工法で建てられています。
玄関ドアはユダ木工 MIYAMA桧玄関ドア 超断熱タイプ、ノルディックレッド色。
木製玄関ドアだけでなく、外壁にも鮮やかな赤色が取り入れられています。
この鮮やかな赤色の部材は、ドイツのメーカー『ウルト（Würth）』の透湿防水シートです。

▲ドイツ製透湿防水シートのサンプル（ ウルト（Würth））

透湿防水シートは、一般的には外壁の下地材の一部として使われる部材です。
『ウルト』の透湿防水シートには多様なバリエーションがあり、
今回のように仕上げ材として使用できるタイプもあります。

ユダ木工の木製ドアに合わせて、珍しい赤色の『ウルト』を取り入れました。通常は塗り壁の下地として隠れてしまう構造を、あえて見せるユニークな外観にしています。ですから、いまだに「建築途中？」と聞かれることがあります。

「C値」とは？　気密測定でわかる、家の「すきま面積」

「C値（相当隙間面積）」という言葉を目にしたことがあるでしょうか。
家づくりに向けて情報収集をされている方は、ご存知かもしれません。

住宅の気密性能は「床面積あたりの隙間面積」＝「C値」で表されます。

たとえばC値1.0という数値は、床面積1㎡あたり1㎠の「すきま」が開いている状態を表します。
気密測定士は、このすきまの大きさを計測しています。
30坪でC値1.0の住宅の場合、家中のすきまを全て1か所に集めると
およそ10cm×10cmの穴が開いている計算になります。

住宅性能と気密性能　気密はなぜ重要なのか

卜部さんはなぜ「気密」のお仕事をされるようになったのでしょうか。

まず、日本で住宅の高断熱化や省エネ化が叫ばれ始めた当初、実はまだ「気密性能」の話がほとんど無かったんです。
ここ山梨県富士吉田市は、旧3地域（※1）です。3地域というと、北海道函館市と同じ区分です。冬場は富士山からの吹き下ろしで非常に冷たい風が吹き付け、雨や雪も多いです。地図上では温暖な南側に位置していながら、実は寒さの厳しい地域なのです。

▲地域区分（イメージ図）

※1 地域区分：
建築物の省エネ性能基準は、国交省が定める「地域区分」に基づいて地域別に設定されています。
（富士吉田町は現在4地域）
同じ日本国内であっても、地域によって気候風土は大きく異なります。
土地の気候風土に合わせて、最適な住宅設計も変わります。

住宅の断熱化に伴って、気密性能不足による問題が出てくるようになりました。屋内外の温度差が大きい状態で空気が壁の中に入り込むと、内部で結露して構造材を腐らせてしまいます。そして寒い地域なので、窓ガラスの結露による凍結も大きな問題でした。私たちは、当時推奨されていた住宅性能の考え方だけでは不十分で、断熱とセットで気密と換気の技術が必要だと感じました。

そこで我々は北海道の家づくりから基本を学び、取り入れました。断熱性能を計算で計画するのとは違って、気密性能は現場での施工技術が性能に大きく関わります。実際の家づくりに合わせて、現場で一つ一つ検証していきました。建築部材は国内だけでなく世界から探しました。先ほど見ていただいたドイツ製の透湿防水シートもその一つです。